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東京高等裁判所 昭和44年(う)889号 判決 1970年1月27日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

<前略>

控訴趣意中被告人向山に対する法令適用の誤の主張に付て。

公職選挙法第二百二十四条による価額の追徴は「収受しまたは交付を受けた利益」を没収することができなくなつた時期に於てその利益を所持していた者ないしは享受した者より追徴する趣旨と解すべきところ、(昭和二十九年八月二十四日最高裁判所第三小法廷最高裁判例集刑事八巻八号一四四〇頁参照)原判決は、(法令の適用)の項に於て、被告人向山が原判示第二の(一)の犯行により被告人本間らから収受した現金五万円全部を同第二の(二)の犯行により被告人光谷に供与したがその後同被告人から右現金のうち一万円を収受したのであるから、仮令この一万円の授受が被告人光谷の供与、被告人向山の受供与として起訴されていなくとも、被告人向山にとつては自己が供与した現金そのものを受供与者から返還を受けた場合と同様、右現金一万円は必要な没収若しくは追徴の対象となるとして同法条に則り被告人向山から一万円を追徴したことは所論指摘のとおりである。ところで一件記録によれば、被告人向山は、昭和四十三年六月十三日頃、原判示第一の場所に於て帯刀金蔵から原判示第一の趣旨で供与されることを知り乍ら現金五万円を収受し、その翌日頃原判示第二の(二)の場所に於て被告人光谷に対し右現金五万円全部を同判示の趣旨で一旦供与し、その後の同月二十二、三日頃同被告人から右現金五万円のうち一万円を佐和田地区内に於ける旧二宮村内の選挙人に働きかける為め右と同趣旨で収受し、その後間もなく右一万円を自分の所持金と一緒にして費消したことが明らかで、被告人向山に於て已にその利益を凡て享受し終つた為め最早これを没収することができなくなつたもの金一万円は、受供与者である。されば右である被告人光谷が受供与利益そのものの一部を供与者である被告人向山に返還したものに該当し、被告人向山に於て公職選挙法第二百二十四条により所論の追徴を受けることは当然であつて、(昭和三十一年九月六日最高裁判所第一小法廷判決、最高裁判所判例集刑事一〇巻九号一三二五頁参照)論旨引用の判例は事案を異にし本件には適切でない。原判決には所論の違法は存せず論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件各控訴を棄却し主文のとおり判決する。(栗田正 中西孝 上野正秋)

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